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再会②
その日は口から魂の抜けてしまった課長を遠巻きに眺めつつ、黙々と仕事に精を出した。
俺だけでなく、みんなが腫れ物に触るような扱いだった。
めくら判を押し続ける課長に、これ幸いと、日頃はなかなか認めてくれない決済書類や、有休申請書を各々が間に挟んで出してみたところ、全部ハンコが押されて戻ってきた。
ラッキー!
そんなにシルバを気に入ってたのか?
意外だった。
あの強面で『でちゅねー』は流石にキモかったけれど。
何だかかわいそうになって
「…課長、もしよければ、シルバの写メ撮ってるのを転送しましょうか?」
「えっ?ホント?マジ?
早く!早く送ってくれよ!あ、携帯とパソコンと両方な!」
「あっ、はいっ。すぐに…
はい、送りましたよ。」
「はあっ…マジ天使……うっ…シルバちゃん…」
あのー、イメクラとかキャバクラの嬢じゃないんですからっ!
部屋に残っていた数人、完全に引いている。
課長は早速両方の待ち受け画面をシルバのアップに設定していた。
「あのー、課長?」
「んー?何?」
「シルバのどこが良かったんですか?」
「『どこ』?全部だよ、全部!
あんな無垢な瞳で見つめられたの初めてなんだよっ!
きゅんきゅん鳴いて甘えてきて…くうっ。
『アナタがいなければ死んじゃう』って言われてるみたいで…
…最近じゃ、嫁も子供も俺のこと『マジキモーい』とか『粗大ゴミ』とか『ATM』とか言うんだぜ…家族すらそんな扱いなのに、初めて会ったあの子は、俺のことを…」
うっわー、気の毒すぎる。
俺は返す言葉もなかった。
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