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淡い恋の芽生え①

side :黒曜 俺達の感情が落ち着くまで、黙って抱いてくれていた彼。 恥ずかしさのあまり火を噴きそうな真っ赤な顔で暇乞いをして、このお礼は必ず…とそそくさと退散した。 別れ際、銀波に 「遊びに来てもいいけど、黙って一人で来ちゃ絶対にダメだ。 万が一、保健所に連れて行かれでもしたら大変だから、来る時は須崎さんと一緒に来るように。 それが守れるなら、またおいで。」 と言ってくれ、銀波を非常に有頂天にさせた。 家に帰って銀波と風呂に入り、興奮してはしゃぐ銀波をなだめすかせて、やっと寝付かせた。 『一人で子育て、頑張ってたんですね。 …あなたも…感情を解放していいんですよ。』 愛おしげに髪を撫でられ、思いがけず掛けられた優しい言葉に縋ってしまった。 気が付けば、彼に抱きつき、泣いていた。 泣くなんて…何年振りだろう。 物心ついた時にはもう、感情を表に出すことはなくなっていた。 妹の白磁(はくじ)が亡くなった時でさえ泣かなかったのに。 不思議な人。 俺達が獣人であることも受け入れ、優しくしてくれる。 今まで、こんな人に出会ったことがなかった。 純粋で優しくて、春の陽だまりのような…心温かく清らかな人。 俺達は感覚的にいろんな物事を考え行動する。 直感が外れたことはない。 銀波が彼を慕うのはよくわかる。 俺も…同じ気持ちだから。 でも、彼は人間だ。 それに… 男性だ。 いくら心惹かれても、受け入れられることはない。 銀波を救ってくれた恩人。作家と読者。 それだけの関係。 それでも…彼を想う気持ちが強くなるのはどうしてだ? 戸惑いを隠せなくて眠れなくなった。

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