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淡い恋の芽生え③

ひとしきり泣いた後、銀波は何かを悟ったような すっきりとした顔になっていた。 「最後に会う時は甘えてもいい?」 上目遣いの精一杯のお願いに…折れた。 「…うん、いいよ…でも、迷惑にならない程度でね。」 「やったぁー!」 子狼になり、また少し尻尾を振り始めた銀波の頭をグリグリと撫でると、わかってるよ と言いたげに きゅう と鳴いた。 まだ幼いこの子に、人狼としての鎖を繋げてしまうことに罪悪感があった。 それでも、教えていかなければ、人間との共存はできない。 人間社会で暮らしていくのであれば、何かの拍子でバレた時に身を守る術をも教えなければ。 学校や就職、そして…結婚。 この子のために考えなければならないことは山程ある。 そのために今できることを一つずつこなしていかなければ。 幸いなことに執筆で得た生活費は、余程の贅沢をしない限り困ることはない。 これからも執筆を続ける限り問題はないだろう。 俺が先に逝っても、銀波が十分生活していけるはずだ。 ふと、葛西君の笑顔が浮かんだ。 今度会う時が最後か… きっと、あんな人と出会うことは二度とないんだろうな… 相手が男でも、こんな気持ちになるんだ… さっき銀波に言い聞かせたのは、自分に対して駄目押しをしたかったから。 生まれかけてる淡い恋心を断ち切りたかったから。 銀波、ごめんな。 お前のせいにして。 足元にじゃれ付く銀波の頭を撫でながら、心の中で銀波に詫びた。 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、銀波は俺の指をペロリと舐めて、きゅう っと鳴いた。

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