25 / 337
口実①
きちんとお礼をしなければ。
何をしたらいいだろう。
どうしたら喜んでもらえるだろう。
彼が持っている物も着ている服も、高級ブランドと言うわけではないが、さり気なく上品で、こだわりのある上質な物だった。
食事に誘う方がいいか、それともいつも使ってもらえる物がいいのか…
あれこれ考えるだけでワクワクする。
でも…
それは最後の…
「先生、何だか最近ご機嫌ですね。
何かいいことあったんですか?」
打ち合わせ中、編集担当の相葉君に揶揄うように尋ねられた。
「いや、特には。
そんなにご機嫌に見える?」
「ええ。何だか雰囲気が…言い方悪かったらごめんなさい。
…花が舞ってるようです。」
はぁ? と口をあんぐりと開けて彼を見た。
「花ぁ!?何だよぉ、それ。」
相葉君は笑いながら
「だって先生、『恋する乙女』みたいですよ。
あははっ!」
眉間に皺を寄せ、相葉君を睨みつける。
「先生、そんな顔したって怖くないですよ。
それに、イケメン度がますますアップして…」
ニコニコしている相葉君。
「『恋する乙女』って…別に恋してるわけでも何でもないよ。」
ぶつぶつ言うと
「そうだ!先生、この次の連載、恋愛モノに挑戦してみませんか?
『須崎 黒曜、初の恋愛小説!
私も恋をしたくなりました…』
なんてどうです?
ミステリー作家の新境地!
あぁ、ワクワクしてきましたよ!」
勝手に一人で盛り上がる相葉君。
ともだちにシェアしよう!