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嬉々哀々(ききあいあい)②
「そうだな…何も考えずに自分の思う通りに出来ればいいよな。
でも、それは自分勝手というもんだ。
相手の気持ちなんか無視してる。
それでは社会生活は営めない。
人は一人では生きていけないんだ。
獣人も。
誰かを助けて助けられて、思って思われて。
それでも彼のように無条件で他人に手を差し伸べる人間はごく僅かだ。
そんな優しい心の持ち主に会えたことだけでも、俺は幸せに思う。
人間の中にも、そういう人がいた…それだけでな。」
銀波は黙って俺を真っ直ぐに見つめ、しっかりと聞いている。
その瞳がゆらりと揺れた。
「黒曜は…これからも結婚しないでここで暮らすの?
誰とも…番にならないの?
僕がいるから?僕、黒曜の邪魔になってる?」
俺は銀波の頭を撫でながら答えた。
「結婚は…わからないな。そうしたいと思える相手に出会えればそうするし、出会えなければこのままだ。
それを不幸だとは思わない。俺の人生だから。
銀波がいるからとか、そんなことは関係ないよ。
お前は邪魔なんかじゃない。お前は必要だ。
俺の大切な家族だよ。
二度とそんなこと言うな。
いいな?」
こくんと頷いた銀波は、俺の胸に擦り付いてきた。
「黒曜…バカって言ってごめんなさい。
黒曜、大好き。」
「あぁ。俺もお前が大好きだよ。」
「…ママと会えなくなるの、本当は嫌なんだ。」
「うん、わかってる。」
「ママと…ずっといたいんだ。」
「うん、わかってる。」
「…ママと…うくっ、うぐっ、うっ…」
俺は泣きじゃくる銀波の背中を撫で、泣き止むまでそっと抱きしめていた。
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