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嬉々哀々(ききあいあい)③

少し目の赤い銀波を連れ、約束の時間に間に合うように家を出た。 銀波はまだ上手に人型になれない。 幼いが故、どうしても耳と尻尾が出てしまうのだ。 これは慣れるしかないし、何度も練習しなければ難しい。大人になるにつれて簡単に変化(へんげ)できるようになるのだけれど。 それでも人型になるにはやはり体力を使う。 リラックスしている時や病気になると、狼の方が楽だ。 今日のところはチビ狼になった銀波を懐に入れ、葛西君のマンションへと急いだ。 ドキドキしながらインターホンを鳴らした。 「こんにちは。須崎です。」 「はい、どうぞ。今開けます!」 ロックを外してもらいエレベーターへ。 「いいか、銀波。 今日で…終わり。それは、ちゃんと受け止めてくれ。いいな?」 「きゅん」 一刻一刻死刑台に向かうような気分になるのは何故だ? 銀波に念押しして階数表示を見ると、どうやら着いてしまったようだ。 到着した瞬間、一瞬ふわっと下降するあの感覚に、足元が震えるのを我慢する。 人工的な物はあまり好きではない。 大きく息をしてインターホンを鳴らそうとする前に、ドアが開いた。 「お待ちしてました!どうぞ!」 「図々しく押しかけてすみません。 お招き頂いてありがとうございます。」 「キュウ、キュウン」 「いいえ、無理矢理でごめんなさい。 シルバ!あれ?今日は子犬なの?」 葛西君が笑いながら、俺の懐の銀波を受け取った。 玄関先までいい匂いがしている。 「変身しなきゃ、ご飯食べれないよ。」 銀波は甘えた声を上げて、葛西君の手をペロペロ舐めている。 くっそ。マジで甘えやがって。

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