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嬉々哀々(ききあいあい)⑥

楽しい時間はどんどん過ぎていき… 「そろそろお暇しなくては… 葛西君、本当にありがとうございました。 お礼をしなければならないのに、すっかり甘えてしまって…申し訳ありませんでした。」 「とんでもない! 俺の方こそ無理矢理お呼びたてしてしまって…おまけにシャツまで頂いて…すみません。ありがとうございました!…でも、本当に楽しかったです。 シルバ、また遊びにおいで。ご飯作って待ってるから。」 銀波が目を見開いて固まった。 「シルバ?どうしたの?」 葛西君がシルバを覗き込んだ。 見る見るうちに大きな銀波の目に涙が溜まってくる。 「シルバ?」 跪いて銀波と同じ目線になった葛西君が、銀波の肩にそっと手を掛けた。 限界だったのだろう。 うわーん うわーんと大声を上げ、葛西君に抱きついて銀波が大泣きし始めた。 マズい。銀波を葛西君から引き離そうとした。 「銀波、ほら、帰るよ。」 「いや…だ…ひぐっ…帰ったら、もう、ママと…ひぐっ…会えなく…なっちゃう!」 「『会えなくなる』って?…シルバ、何言ってんの? …どういうことですか、須崎さん?」 俺は立ち竦んで何も言えなかった。 シルバ…約束だっただろ? 「須崎さん、何か隠してますか? 引っ越し?それとも…結婚?」 あぁ、その手があったのか。 「えぇ、実は…そうなんです。 だから、もう、お会いできなくなるので…」 「…そうだったんですか。それはおめでとうございます。 シルバ、よかったな。 かわいがってもらうんだぞ? ほら、もう泣くな。男の子だろ?」 離れたがらない銀波をやっとのことで胸に抱きとめ、改めて葛西君にお礼を言った。 「本当にありがとうございました。 何てお礼を言えばいいのか…どうぞお元気で。」 「いいえ、俺も楽しかったです。 また新作楽しみにしています。お元気で。」

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