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胸に空いた隙間は①
side :黒曜
きっと…いや、絶対に…葛西君に嫌な思いをさせてしまった。
あんな別れ方はしたくなかったのに。
あれだけ泣いていた銀波は、今は大人しい。
俺との約束を破ったことに、銀波なりに反省しているようだった。
家に着き、銀波をソファーに下ろして、書斎へ入るとパソコンの電源を入れた。
いくつかのメールがきており、相葉君からは、恋愛モノの新作のお願いがあった。
懲りない人だな。
失恋したばかりだから、今は無理だよ。
一言「お断りさせて頂きます。」とだけ打って送信した。
残りのものにも全て返信して、リビングに戻ると、銀波が人型になっていた。
耳はぺたりと頭にくっ付き、尻尾は くるくると小さく丸まっていた。
「…黒曜、ごめんなさい。約束破っちゃった。
ママ、勘違いしちゃったね…僕のせいで悲しいお別れになっちゃった……ごめんなさい…」
この子に我慢を強いたことが、そもそもの間違いだったのか。
「銀波…俺はあんな別れ方はしたくなかったんだよ。
でも、まあ、仕方がないよ。」
俺は銀波の頭を撫で
「仕事が溜まってるから片付けてくるよ。
しばらく一人で遊べるか?」
「うん。大丈夫。」
「そっか、ごめんな。」
そう言い残して書斎へ戻った。
本当は急ぎの仕事もないし、溜まってもいない。
銀波といたらあいつを責めそうで、距離を置かねばと思ったから、敢えて離れた。
暗に結婚を仄めかした時の葛西君の顔が忘れられない。
ショックを受けたような、一瞬血の気が引いたような顔だった。
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