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胸に空いた隙間は②
あの時の彼の顔色が変わった意味は?
まさか、俺のことを…いや、そんな訳はない。
とにかく…もう二度と彼には会えないんだ。
パソコンに向かっても何をするわけでもなく、時間を潰した。
淡い初恋が消えてしまって、この感情をどうすればいいのかわからない。
完全に自分で自分を持て余している。
相葉君、やっぱり俺には恋愛小説は書けないよ。
自分が傷付くのが怖いから、恋愛はできない。
そんな経験のない俺には…無理だ。
喉が渇いて、さてコーヒーでも飲むか と立ち上がった。
銀波はどうしているかとリビングを覗くと、ソファーの上でチビ狼になって丸まっていた。
落ち込んで泣き疲れて寝てしまったんだろう。
そんな銀波を撫でてやる心の余裕は今の俺にはない。
銀波、ごめん。
そのままキッチンに入ると手早く準備をして缶の蓋を開けた。
いい香り。
荒んでいた心が少し和らいだ。
ゆっくりとドリップすると、濃い香りが部屋に漂っていく。カップを温めておき、最後の一滴が落ちるのを待ち兼ねてフィルターを外し、たっぷりと注いだ。
少し酸味のあるそれでいてまったりとした味を楽しみながら
「葛西君と一緒に飲みたかったなぁ」
なんてぼんやりと考えてしまう。
自分であの心地よい関係を切っておいて、何都合のいいことを言ってるんだ。
自分のいい加減さに呆れてしまう。
銀波も傷付けてしまった。
あの人の幸せを祈ろう。
あの優しい人をそれ以上に優しく包んでくれる人が現れますように。
少し冷めたコーヒーを飲み干して、切ない気持ちを振り切るようにシンクを片付けた。
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