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胸に空いた隙間は⑤
13時少し前に意気揚々と戻ってきた課長は、宣言通りゲージを大事そうに抱えていた。
うっわー、マジだったんだ…
えー…連れてきたの?葛西君の真似?
これ、マズいでしょ。
半休使って犬買いに行くなんて….聞いたことない。
コソコソと交わされる冷ややかな会話と空気を物ともせず、課長は自分の席に着くと、蓋を開けて気色悪いほど甘い声を出した。
「おーい、モコ、出ておいで!」
モコ?モコって名前なんだ。
ひょこっ と鼻先だけが現れて、課長の手が触れると、ふんふんと匂いを嗅いでいた。
その手をペロペロと舐められ、課長の顔がどんどん崩れていく。
「みんなに見てもらおうか…よっ と…」
見知らぬ場所に片手で引っ張り出されたにもかかわらず、白いもふもふは課長の手の中で、尻尾を振っていた。
警戒心ゼロ。怖いもの知らずか?
きゅうん
途端にシルバを思い出した。
じわりと目が熱くなってきた。
あの子は今どうしてるんだろう。もう、泣いてないよな。
須崎さんは、ちゃんとご飯を食べてるんだろうか。
「「いやっ、かわいい!」」
事務の女の子達が取り囲んだ。
『俺達は興味ないけど、一応課長が見ろと言うから』というスタンスを取りながらも、男性陣がガッツリとその後ろを陣取っていた。
さっきまで散々冷たい視線で迎えてたのに。
「かわいいー!」
「ふわっふわ!」
「連れて帰っていいですかぁー? 」
「人懐っこいー!」
手から手へ、腕から腕へ。
大きな目をキョロキョロさせ、暴れもせずモコが手渡されていく。
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