41 / 337

胸に空いた隙間は⑤

13時少し前に意気揚々と戻ってきた課長は、宣言通りゲージを大事そうに抱えていた。 うっわー、マジだったんだ… えー…連れてきたの?葛西君の真似? これ、マズいでしょ。 半休使って犬買いに行くなんて….聞いたことない。 コソコソと交わされる冷ややかな会話と空気を物ともせず、課長は自分の席に着くと、蓋を開けて気色悪いほど甘い声を出した。 「おーい、モコ、出ておいで!」 モコ?モコって名前なんだ。 ひょこっ と鼻先だけが現れて、課長の手が触れると、ふんふんと匂いを嗅いでいた。 その手をペロペロと舐められ、課長の顔がどんどん崩れていく。 「みんなに見てもらおうか…よっ と…」 見知らぬ場所に片手で引っ張り出されたにもかかわらず、白いもふもふは課長の手の中で、尻尾を振っていた。 警戒心ゼロ。怖いもの知らずか? きゅうん 途端にシルバを思い出した。 じわりと目が熱くなってきた。 あの子は今どうしてるんだろう。もう、泣いてないよな。 須崎さんは、ちゃんとご飯を食べてるんだろうか。 「「いやっ、かわいい!」」 事務の女の子達が取り囲んだ。 『俺達は興味ないけど、一応課長が見ろと言うから』というスタンスを取りながらも、男性陣がガッツリとその後ろを陣取っていた。 さっきまで散々冷たい視線で迎えてたのに。 「かわいいー!」 「ふわっふわ!」 「連れて帰っていいですかぁー? 」 「人懐っこいー!」 手から手へ、腕から腕へ。 大きな目をキョロキョロさせ、暴れもせずモコが手渡されていく。

ともだちにシェアしよう!