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胸に空いた隙間は⑥

もちろん俺もその輪の中にいて…もふもふを手にした瞬間、シルバの毛並みを思い出して、また泣きそうになり、慌てて次に待ち受ける手に受け渡した。 そうやって一巡し課長の手元に戻ってきたモコは、安心したように課長を見上げて きゅうーん と鳴いた。 悶絶した課長は、その後使い物にならなかった。 よかったですね、課長。羨ましい…くそっ。 愛しのもふもふに甘えられて頼りにされて。 きっかり定時で帰って行くその背中からはピンクのハートが飛んでいた。 さてと、今日はやる気もないし淋しく帰るとするか。 玄関を出たところで 「葛西クーン!待ってぇー!」 この声は…総務の、確か…早瀬。 コイツ、しつこいんだよな…断っても断っても自分がモテると思い込んでて、モーションかけてくる勘違い女。 「はあっ…もう、歩くの早いんだもん。 ねぇ、一緒にご飯食べに行きませんか? 美味しいとこ知ってるんです!」 そう言いながら腕を絡ませ、あろうことか、グイグイ胸を押し付けてくる。 ムカついた。 何で付き合ってもない女に腕組みされなきゃならんのだ? 今の俺は超絶機嫌が悪い。 いつもならサラリと受け流すことさえ、今日はできなかった。 「何で腕組んでんの?触らないでくれる? そういうことされると、じんましん出ちゃうんだけど。 俺、付き合ってもいない女にベタベタされるの、スッゲー嫌なんだ。」 拒絶の言葉とともに、その手を振りほどいた。 「えっ?」 まさか拒否されるとは思わなかったんだろう。 ものの見事に固まっている。 「悪いけど、用事があるから行かないよ。 じゃあ。」 「ひどい…そんな言い方しなくっても。」 「はっきり言わないとわかんないだろ? 他の奴らも迷惑してる。 君が今やったことって、セクハラだぜ?」 「何ですって!?みんなに言ってやる!」 「どうぞご勝手に。俺は事実を言ったまでだから。」 地団駄を踏むバカ女を置いて、とっととその場を立ち去った。

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