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新しい生活⑩

「取り敢えず…輝の引越しをしよう。 一日でも早く一緒に住みたい。 輝の顔を見て声を聞いて気配を感じて… 一緒にご飯を食べて笑って怒って楽しんで… 夜は同じ褥で眠る… あぁ、何て幸せなんだろう。 こんなに幸せなことがあっていいのかな…」 「俺もそうしたいです! でも、休みの日でないと無理ですね… 取り敢えず着替えとか必要なものだけ持ってきてもいいですか? そうすれば明日からでも一緒に住むことができます!」 「そうしてくれたらうれしいな… それに、まだ君の家族の許可を得ていないから… どうやって説明したらいいのか…」 「そうだ! 祖母に会ってもらってもいいですか? 昔っから『輝に結婚したい人が現れたら必ず連れておいで』って言われてたんです。 豪胆で大らかで優しくって… きっと俺達のこと、わかってくれます。」 「そうか…じゃあ、まずおばあさんに会いに行こう。 お住まいは何処に?」 「隣の県のすごい田舎ですよ。 公共の交通機関なら半日以上かかりますから、車の方がいいです。 俺、運転慣れてるんで車で行きましょう。 シルバ…シルバも連れて行きたいです。 絶対…わかってくれます!」 なぜか『絶対に理解してくれる』という、第六感というのか、直感というのか、妙な安心感があった。 にっこり微笑む俺の顔を見て、黒曜さんも安心したのか 「銀波が起きてるかもしれない。 見てきますね。」 と俺の髪を撫で、キスをして名残惜しげに出て行った。 おばあちゃん…何年会ってないんだろう。 不思議な空気に包まれた人だった。 親戚中から一目置かれる存在だったが…まだまだ元気なはず。 うん、絶対に大丈夫! 俺は根拠のない安心感に包まれていた。

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