106 / 337

呑気な両親⑦

「おじいちゃん…銀狼だったんだね。 おばあちゃんに写真見せてもらったよ。 たった一枚だけど、すごく幸せそうだった。」 兄は、祖父が亡くなったのは車に轢かれそうになった子供を助けようとして庇い、犠牲になったのだと教えてくれた。 当時は、相手の子が『自分のせいで誰かが犠牲になった』と すごいショックを受けていて、交通事故だとしか公表していなかったのだ。 その子は大きくなって、人を助ける仕事がしたいと警察官になり…祖父の命日には毎年欠かさず墓前に花を手向けに来てくれるそうだ。 去年、兄が変化して祖母の所へ飛んできた時に、偶々居合わせて仲良くなり、今では飲みに行く間柄なんだとか。 人の縁って本当に不思議だ。 「ところで兄さん、付き合ってる人はいないの?」 「えっ、俺?…いない…こともない…」 「いるの?そうなの?どんな人?」 「いや、まだそんな関係じゃないから… もし、付き合うようになったら知らせるよ。」 兄は照れ臭そうに身体を屈めて、お茶を飲み干した。 父と母は… シルバを交互に抱っこしては、何やら話をしている。 シルバが笑っているということは、仲良くなったのだろう。尻尾も揺れている。 父は動物園勤務の獣医だし、母は小児科の看護師だから、子供相手はお手の物だ。 それを側で、にこにこと祖母が見守っている。 よかった…あの、大泣きがあったから心配していたのだが… 兄が真面目な顔をして言った。 「黒曜さん、確か人狼って同性でも子供が作れるんでしたよね?」 「ええ。身も心も本当に愛し合った時に、相手の身体が変わって…と聞いてます。」 黒曜さんも真剣に答える。 「…いつか、いつか…そうなったらいいな、と思っています。」 真っ直ぐ惑いのない瞳で見つめられ、息が止まった。

ともだちにシェアしよう!