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呑気な両親⑩

「黒曜さん…」 彼の気持ちを思うと、言葉が上手く出てこなくて…その代わりにそっとその両手を包み込んだ。 見つめ合う俺達。 と、そこへ兄の悲痛な声がした。 「あー、もう、そういうのは二人っきりの時にしてくれー! 頼む…目の毒だ…」 慌てて距離を取る俺達を兄は面白そうに見ていたが 「俺も…『婚活』頑張ってみるとするか! 撃沈したら、慰めろ。高級ステーキ奢ってくれ。」 と、半ばヤケクソになって宣言していた。 「兄さん、『付き合ってそうで付き合ってない人』にアタックするんだよね!? その人…人狼のこと、知ってるの?」 「…あぁ。耳…見られたからな。 仕方なく全部洗いざらい話したよ。 それでも…普通に接してくれてさ。 まぁ、期待しないで待っててよ。」 ふっ と笑った顔が少し寂しそうだった。 シルバは…抱っこに飽きたのか、部屋の中をぴょんぴょん 跳ね回っている。 家族に結婚を受け入れてもらったことに安堵した俺は、何だか急に睡魔に襲われた。 一瞬意識が飛んで、ふわふわと空中を揺れる感覚に、再び意識が浮上すると、黒曜さんに抱きかかえられ、布団に運ばれていた。 「…黒曜さん?」 「気が抜けちゃったんだな。 おばあさんが、夕食まで横になるようにと。 俺がついてるから…」 「でも」 「いいから!ゆっくり休んでて…」 「…はい…」 大きな手に頬を撫でられて、気持ち良さにうっとりとして、その手に擦り寄る。 「くっ…甘えん坊だな、輝は。」 揶揄われても、何を言われても、心地いい温もりを離したくなくて、いつまでも甘えるようにくっ付いていた。

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