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二人の想い②
考え込んだ俺に、兄が言った。
「産休や育休はあるけれど…女性ならそれで通るが…
お前自身の体型が変わっていくから、『嫁のため』とか『家族のため』ってのは使えないし、見た目誤魔化しようがないんだよな。
となると…やっぱ辞めるしかないのか…
全く理不尽な世の中だよな。」
「兄さんのルートでそういう職場はないの?」
「あるけどお前の家からはメッチャ遠いぞ。
通うのはちょっと無理がある。
近場ではなかなかないよな…」
「…うーん、やっぱりそうか…もし、そうなったら考えようかな…」
「何言ってんだ!
黒曜さんもそう望んでるし、お前もそうなんだろ?
じゃあ計画的に考えておかないと、銀波ちゃんもいるんだから、行き当たりばったりでは困るぞ!
…いつできてもおかしくないんだろ?」
いつになく真剣な兄に諭された。
シュンと項垂れる俺に
「世間で言う“普通”じゃないことだから、念には念を入れないと…わかるよな、輝?」
「…ありがと、兄さん…」
本気で俺達のことを考えてくれてる。
そう思ったら鼻の奥がツンとなって、じわりと涙が出てきた。
「えっ、えっ!?輝っ!?やばっ、泣かしちまった。
おいっ、泣くなよ、泣くなってば。」
あたふたと俺を宥める兄に、何だかおかしくなって泣き笑いしていると、シルバが飛んできた。
ペロペロと俺の涙を舐めて、きゅーん と首を傾げている。
「ふふっ。シルバ…何でもないよ!
大丈夫。さぁ、おばあちゃん達の所へ行っておいで!」
きゅうん!
元気に返事をすると、また祖母たちの所へ戻って行った。
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