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二人の想い⑧

父も同調する。 「そりゃあびっくりするよなぁ。 でもさ、すぐに慣れて甘えてくれてうれしかったよ。かわいいなぁ。 本当にいい子に育ってる。 黒曜君、これまで本当に苦労したんだろう。 偉かったな。 再来年は小学校か。学習机とランドセル奮発しなきゃな!」 「男手で、よくここまで頑張ったわね。 黒曜さん、あなた立派な育メンよ! …これからは輝がいるから、辛いことや悲しいことは半分に、うれしいことは二倍にも三倍にもなるわよ! 私達もいるしね。」 黒曜さんは「っ…」と息を飲んで俯いてしまった。 どうしたんだろう。 声を掛けようとしたその時、肩が僅かに震えているのに気が付いた。 その肩にそっと触れて、名前を呼んだ。 「黒曜さん?」 ぽたっ 膝の上に置かれた握り拳に、涙が落ちた。 …くっ…っ…くぅっ… 黒曜さんが…泣いていた。 静かに声を殺して… 両親達の労いの言葉に、万感溢るるものがあったのだろう。 その涙に、その姿に、今までの彼の苦労を垣間見た気がした。 普通なら遊びたい盛りの年頃に…ひょっとして恋の一つや二つもしていたのではないか。 自分の生活を犠牲…とは言わないが、必死で子育てに奮闘してきた俺の愛おしい恋人(ひと)。 胸が詰まり、俺も泣きながらその拳に そっと手を重ねると、黒曜さんは空いた手を上から重ねてきた。 嗚咽する俺達を家族は温かく見守ってくれていた。 しばらくして涙を拭った黒曜さんは、俺の手をしっかりと握ったまま、声を絞り出すように 「俺と銀波を受け入れて下さって、本当にありがとうございました。 今後ともどうかよろしくお願い致します。」 と深々と頭を下げた。 父は側に来ると、黙って黒曜さんをハグした。 戸惑う動きの黒曜さんの片腕が、父の背中に回された。

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