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二人の想い⑨

しばらくして、ひと言ふた言何か言い合って、二人は背中を叩き合い離れた。 黒曜さんに笑顔が戻っている。 美しく青い瞳に、力強い光が輝いていた。 そうだ…この瞳に惹かれて恋をしたんだ。 あの時に見た、瞳の奥の悲しげな色は、今は…ない。 もう、悲しませない。 俺が一生側にいるから。 さっき母が言ったよね? 『辛いことは半分に、うれしいことは二倍、三倍に。』 頼りないかもしれないけれど、あなたの伴侶だから。 たった一人で守ってきたシルバを、これからは俺達がみんなで守り育てていくんだ。 そっと頬に触れてきた指に涙を掬い取られて、俺の涙もようやく止まった。 父が、黒曜さんの肩を叩きながらうれしそうに言った。 「黒曜君、今夜は二人で飲み明かすぞ! 月見酒と洒落込もうか。」 「ええ、喜んで!」 「ツマミは俺が作るから…母さん、台所借りるよ。」 「はいはい、お好きにどうぞ。」 俺の手をぎゅっと握ってから、黒曜さんの手が離れていった。 きっと潰れるまで飲むであろう二人を置いて、俺はシルバの元へ戻った。 シルバは…丸まっていい子で寝ている。 規則的な寝息がこの子の命を伝えている。 繋がる命。 脈々と流れる人狼の血。 俺にも…流れている… シルバの頭をそっと撫でながら、不思議な感慨に耽る。 いつか…近いうちに、この身に次の世代の命を宿すことになるだろう。 人狼として人間(ひと)の世で生きていくための知恵をしっかり身につけなければ。 シルバも生まれてくる子供にも、人狼として生きる術を伝えなければ。 だって、俺は“ママ”だから。

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