117 / 337
二人の想い⑨
しばらくして、ひと言ふた言何か言い合って、二人は背中を叩き合い離れた。
黒曜さんに笑顔が戻っている。
美しく青い瞳に、力強い光が輝いていた。
そうだ…この瞳に惹かれて恋をしたんだ。
あの時に見た、瞳の奥の悲しげな色は、今は…ない。
もう、悲しませない。
俺が一生側にいるから。
さっき母が言ったよね?
『辛いことは半分に、うれしいことは二倍、三倍に。』
頼りないかもしれないけれど、あなたの伴侶だから。
たった一人で守ってきたシルバを、これからは俺達がみんなで守り育てていくんだ。
そっと頬に触れてきた指に涙を掬い取られて、俺の涙もようやく止まった。
父が、黒曜さんの肩を叩きながらうれしそうに言った。
「黒曜君、今夜は二人で飲み明かすぞ!
月見酒と洒落込もうか。」
「ええ、喜んで!」
「ツマミは俺が作るから…母さん、台所借りるよ。」
「はいはい、お好きにどうぞ。」
俺の手をぎゅっと握ってから、黒曜さんの手が離れていった。
きっと潰れるまで飲むであろう二人を置いて、俺はシルバの元へ戻った。
シルバは…丸まっていい子で寝ている。
規則的な寝息がこの子の命を伝えている。
繋がる命。
脈々と流れる人狼の血。
俺にも…流れている…
シルバの頭をそっと撫でながら、不思議な感慨に耽る。
いつか…近いうちに、この身に次の世代の命を宿すことになるだろう。
人狼として人間 の世で生きていくための知恵をしっかり身につけなければ。
シルバも生まれてくる子供にも、人狼として生きる術を伝えなければ。
だって、俺は“ママ”だから。
ともだちにシェアしよう!