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ママの役割④

あ…ここが黒曜さんの…妹さんの… 真新しい花が飾られた暮石の前に暫し佇む。 人狼という宿命に翻弄されてしまい、若くして幼いシルバと離れなければならなかった人… その無念は如何ばかりだったのか。 どうかその思いが昇華されて、心安らかになりますように… ハッと気を取り戻して、水を掛け綺麗にしてから線香を供える。 シルバが小さな手を合わせて話しかけた。 「ママ…僕に新しいママができたの! とっても、とーっても優しくて、ご飯も美味しくて、ママとおんなじいい匂いがするの。 黒曜とね、ラブラブなんだ! だからね、安心していいよ! 僕、もう大丈夫だから!」 俺もその横に膝を折り、両手を合わせて話しかける。 「白磁さん、初めまして。輝です。 この度、黒曜さんとご縁を結ばせていただくことになり、シルバをともに育てていくことになりました。 至りませんが、精一杯この子を守っていきます。 どうかこの子が強く逞しく優しく育っていくように、見守って下さい。 よろしくお願いします。」 「白磁…そういうことだから、俺達を見守ってくれ…」 ざわざわと木々の木の葉が揺れる音がする。 一陣の優しい風が吹いた。 俺には、それが「銀波をお願いね」という白磁さんの返事のように思えて胸が詰まり、ぶわりと涙の膜が目を覆った。 溢れた涙は頬を濡らし、慌てて手の甲で拭き取ると、黒曜さんが無言で俺とシルバを抱きしめてきた。 きっと、黒曜さんにも白磁さんの返事がわかったのだろう。 シルバが 「ママ、わかったって言ってるよ!」 とうれしそうに声を上げて笑っていた。

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