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ママの役割⑥
涙が滲んできた。
うれしい…こんな俺でも『存在そのものが生きる糧と術』って言ってもらえた…
高ぶる気持ちを抑えることができずに、肩を震わせて泣く。
溢れる涙を拭っても拭っても、後から湧いて出る涙は止まらない。
ぽんぽんと頭を撫でられている。
黒曜さんの大きな手。
それが下に降りてきて、俺の太腿を数回叩くと、手をぎゅっと握られた。
それだけで心がほんわかと温かくなって、自然と涙が止まっていく。
これくらいで泣いてたら、ママは務まらないぞ。
しっかりしろ、輝。
もう、お前はママなんだから!
ぐいっと残った涙を拭くと、黒曜さんの手を包み込んだ。
言葉はなくても、通じる思い。
重ねた手から、黒曜さんの思いが流れてくる。
車はひた走り、いつもの料金所を通過する。
そうか…人狼の人が経営する会社を見に連れて行ってくれるんだ。
俺が安心するように、気を回してくれてる。
「黒曜さん、ありがとう。」
頷きながら、ぎゅっぎゅっと手を握って合図をしてくれた。
インターを降りて国道に入った。
「…ここら辺のはず…あった!」
五階建てのビルが見えてきた。隣の敷地には大きな倉庫があった。
トラックがずらりと並び、なかなか圧巻な風景だった。
ここは…
ネットでも有名な通販の会社!?
女性に人気の雑貨や小物、洋服やバッグ、アクセサリー等を扱うこの会社は近年急成長を遂げ、一部上場企業に名を連ねている。
嘘…ここが?
「輝、ここだよ。間違いない。」
「…すごい…」
「確か、結構有名なところだよな?」
「ええ…よく名前を聞きますよ。」
「へぇ…完全に人間社会に馴染んでるな…
でも利用するのは人間だけじゃないから。
…この近くにもあと二社あるから行ってみよう。」
「はい!」
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