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ママの役割⑧
「黒曜さん、疲れてるのに俺のために会社巡りして下さってありがとうございました。
そういう会社が実際にあるって、この目で確かめることができて安心しました。
再就職も、そっちの方面で考えます。」
「輝が働きたいと思えばそうすればいい。
無理のないように考えればいいから。」
「はい!」
「…ママぁ…」
「あっ、シルバ!?目が覚めたの?
黒曜さん、俺、後ろに行くね!」
慌てて助手席から降りようとすると、黒曜さんに腕を掴まれた。
えっ!?
ふっと影が差し唇に何かが触れて、すぐに離れていった。
「輝は俺のものだから。それ、忘れないで。」
えっ…キス?…“俺のもの”って…
ぼふっと真っ赤になって黒曜さんを見ると、にやりと してやったりの顔をしていた。
「輝は、お・れ・の・も・の!
銀波も、いいな?」
「…わかってるよぉ!」
…俺は真っ赤な顔のまま、逃げるように助手席を降り、後部座席に滑り込んだ。
「ママ、顔赤いよ?お熱出た?」
「…ううん、大丈夫。
シルバ、喉乾いてない?お腹空いてない?」
「うん、大丈夫だよ!
おばあちゃん、お弁当作ってくれてた。
お家に帰ってから食べる!」
「そうだな、じゃあ、帰ろうか。」
黒曜さんが答えて車を発進させた。
まだ、胸がドキドキしてる。
シルバの前で、キス…するなんて…
黒曜さんは知らん顔で運転している。
「ねぇ、ママ?」
「ん?どうしたの?シルバ。」
「お兄ちゃん、今度遊びに来るって言ってたよ。
楽しみだね!」
「え?兄さんが?」
「うん!みっちゃんも!」
うれしそうなシルバの頭を撫でながら、バックミラーに少し映る黒曜さんの顔を 俺はまだ火照る顔で見つめていた。
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