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ママの役割⑨

買い物も済ませて帰宅すると、お昼はとうに回っていたが、シルバは愚図ることもなく手を洗って待っている。 「はい、どうぞ。お腹空いたね。 おばあちゃん自慢のお弁当だよ。」 蓋を開けると、色とりどりの目にも楽しいおかずが現れた。 「うわぁー!いただきまーす!」 卵焼きの黄色、アスパラの肉巻きの緑、人参とゴボウの炊き合わせの赤、鳥の唐揚げの茶色、胡瓜とワカメの酢の物の緑。 ご飯には赤ジソがふりかけてあって、梅干しがちょこんと乗っている。 「これは美味そうだ…」 黒曜さんが覗き込んできた。 「やっぱり輝のご飯の元はおばあちゃんなんだな。」 「黒曜、ママ、美味しいよー!」 シルバの呼び掛けに俺達も揃って箸をつけた。 何気なくシルバの手元に目がいった。 あ…綺麗な箸使い。 「輝?どうしたんだ?」 「あ、いえ…シルバの箸の使い方がすごく綺麗なので、つい…」 「黒曜がね、間違ってたら“ペン”って叩くの。 だから、上手に使えるよ、ほら!」 得意げに箸を持ち上げるシルバを黒曜さんが窘めている。 そうか… こんなことにまで心を配ってシルバを育てていたんだ。 どれだけの思いで、どれだけ時間を費やして、黒曜さんはシルバを躾けて育ててきたんだろうか。 俺…俺も同じようにできるのだろうか。 愛情たっぷりに育てるというのは、ただ甘やかすことではない。 いいことはいい、ダメなことはダメだと、しっかりと伝えていかねばならない。 この子が人狼としての誇りを持って、しっかり生きていけるように。 「ママ、食べないの?美味しいよぉ!」 決意も新たに、微笑んで頷くと箸を運んだ。

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