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シルバ、デビュー!⑥
三十分程走って、車は段々と山に向かっていた。
「ねぇ、黒曜…本当にこの道なの?
間違ってない?大丈夫?」
流石に心配になったのか、シルバが声を掛けた。
「ああ、間違いない。もうすぐ見えてくるはずだ。
…ほら!あそこだよ。」
指差された方向には平屋の建物と、滑り台やブランコの遊具が見えてきた。
「保育園だぁー!」
シルバの興奮も絶好調で、尻尾が千切れそうなくらいに振られていた。
「今はみんな部屋にいるのかな…とにかく中に行こう。」
さっきまでの大興奮はどこへ行ったのか、急にシルバが大人しくなった。
ひょっとして、急に緊張してきたのか…
「シルバ、大丈夫。怖くないから、おいで。」
手を伸ばすと、その手をきゅっと握ってきた。
「ママぁ…」
「ふふっ。大丈夫だよ。さぁ、行こうか。」
三人で並んで歩いて行く。
実は、俺もちょっぴり緊張しているのだ。
門を潜ると、微かに子供の声が聞こえてくる。
「こんにちはー!」
黒曜さんが声を掛けると、入口の受付から「はーーい!」と返事がした。
間もなく現れた年配の女性は俺達を見て
「あぁ!今日見学される須崎さんですね?
お待ちしてましたよ、さあ、どうぞ!
えーっと…あなたが銀波君ね。
こんにちは!
私は安達 由美恵 と言います。
『ゆみせんせい』って呼んでね。」
シルバの目線に合わせて屈み込んだ ゆみ先生は優しく微笑みながら、シルバの耳元で何かささやき、そっと両手を取って握手してくれた。
ぱぁーっとシルバの顔が輝き、縮こまっていた尻尾が揺れだした。
何を言われたんだろう?
とにかく、よかった!
第一関門突破だ!
ホッとして黒曜さんを見ると、笑って頷いていた。
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