143 / 337

シルバ、デビュー!⑥

三十分程走って、車は段々と山に向かっていた。 「ねぇ、黒曜…本当にこの道なの? 間違ってない?大丈夫?」 流石に心配になったのか、シルバが声を掛けた。 「ああ、間違いない。もうすぐ見えてくるはずだ。 …ほら!あそこだよ。」 指差された方向には平屋の建物と、滑り台やブランコの遊具が見えてきた。 「保育園だぁー!」 シルバの興奮も絶好調で、尻尾が千切れそうなくらいに振られていた。 「今はみんな部屋にいるのかな…とにかく中に行こう。」 さっきまでの大興奮はどこへ行ったのか、急にシルバが大人しくなった。 ひょっとして、急に緊張してきたのか… 「シルバ、大丈夫。怖くないから、おいで。」 手を伸ばすと、その手をきゅっと握ってきた。 「ママぁ…」 「ふふっ。大丈夫だよ。さぁ、行こうか。」 三人で並んで歩いて行く。 実は、俺もちょっぴり緊張しているのだ。 門を潜ると、微かに子供の声が聞こえてくる。 「こんにちはー!」 黒曜さんが声を掛けると、入口の受付から「はーーい!」と返事がした。 間もなく現れた年配の女性は俺達を見て 「あぁ!今日見学される須崎さんですね? お待ちしてましたよ、さあ、どうぞ! えーっと…あなたが銀波君ね。 こんにちは! 私は安達(あだち) 由美恵(ゆみえ)と言います。 『ゆみせんせい』って呼んでね。」 シルバの目線に合わせて屈み込んだ ゆみ先生は優しく微笑みながら、シルバの耳元で何かささやき、そっと両手を取って握手してくれた。 ぱぁーっとシルバの顔が輝き、縮こまっていた尻尾が揺れだした。 何を言われたんだろう? とにかく、よかった! 第一関門突破だ! ホッとして黒曜さんを見ると、笑って頷いていた。

ともだちにシェアしよう!