159 / 337

小さな恋の始まり⑤

ゆみ先生が、太陽君に優しく話しかけていた。 太陽君に家族がいるように、シルバにもちゃんと帰るお家があること。 保育園で一緒に遊んだり学んだりできること。 お休みの日にも遊べたらいいね、とも。 それを聞いていた太陽君が、静かに泣いていた。 子供なりに一所懸命納得しようとしているようだった。 けれど、感情が追いついていかないのだろう。 突然、シルバが太陽君の頬の涙をペロリと舐め取った。 驚く太陽君に、シルバが言った。 「明日!明日、また遊んでね!」 「…絶対に来いよ。」 と太陽君はそう言って、鼻先をぐりぐり擦り付けてきた。 クスクス笑う二人を見ていた他の子達が『結婚したみたいだ』と囃し立て大騒ぎになっている。 そこへゆみ先生の大声が… ピタリと静かになった教室で、サヨナラの握手をしてくれた ゆみ先生に見送られ、俺はシルバと手を繋いだ。 廊下へ出ると、太陽君が扉のところまで追ってくる。 「シルバっ!明日な!絶対だぞっ!」 目に涙を一杯溜めた太陽君が手を振り、今日はそれでお別れとなった。 先生方と園長先生に見学のお礼と明日からのお願いをして…黒曜さんは太陽君のお家への連絡も再度頼んでいた。 こうして、思いがけない波乱の見学は終わった… 車に乗ってからも、何度も何度も後ろを振り返るシルバに 「お友達、たくさんできてよかったね、シルバ。 明日も会えるから。みんなと一杯遊べるよ!」 と声を掛けると 「…うん。」 と言ったっきり、黙ってしまった。 …輝…と黒曜さんに小さな声で呼ばれて振り返ると、優しい目で俺を見ながら、数度首を横に振った。 “そっとしておけ”ということか… 俺はシルバにそれ以上声を掛けるのを止めて、身体を前に戻した。

ともだちにシェアしよう!