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小さな恋の始まり⑦
携帯が鳴っている。
黒曜さんのだ…
「はい、須崎です。
はい、いいえ、こちらこそ。お世話になりありがとうございました。
……ええ、はい。」
仕事の電話かな?
黒曜さんは、気を利かせて部屋を出ようとした俺の腰に手を回し、首を横に振って引き止め、そして、スピーカーモードに変えた。
「…と言う訳で、今からご挨拶に伺いたいとおっしゃってるんですよ。
急なんですけど、ご都合はいかがでしょうか?」
園長先生の声?
挨拶って…まさか太陽君のご両親?
黒曜さんは、俺の頭を撫でながら答えた。
「わざわざ来て下さるんですか?ご迷惑ではないのでしょうか?」
「それがね、丁度配達もあるから、ぜひにと。こういうことは早い方がいいから、とおっしゃってるの。」
「そうですか…ちょっとお待ちくださいね。」
スピーカーモードを外した黒曜さんは
「俺は…今日の二人を見ていると、番に間違いないと思う。
顔合わせ…というか、白黒つけといた方がいいと思うんだが…」
「それでシルバが幸せになるなら、俺は反対しません。」
「…わかった。じゃあ、来ていただこう。」
また画面をタップすると
「お待たせいたしました。
では、お待ちしています。…はい、はい。
よろしくお願い致します。
はい、失礼致します。」
はあっと大きく息を吐いた黒曜さんは
「あと一時間くらいで着くそうだ。
シルバを起こさないとな。
コーヒーもあったし…」
「お茶菓子、買ってきます!」
「俺が行くよ。輝はシルバを頼む。」
ちゅっ と唇にキスをした黒曜さんが、あっという間に出掛けて行った。
俺はチビ狼のシルバを揺すって起こしにかかる。
「シルバ、シルバ!
太陽君のご両親が来るんだよ、起きて!」
ピクッと反応して目を開けたシルバは、俺をじっと見ていた。
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