165 / 337
許婚③
小橋さんが慌てて言った。
「あぁ、そんな!どうか、頭を上げて下さい!
こちらがお願いしなければならないのに。
ではお許しいただけた…銀波君を嫁として迎えることができる…と受け取ってよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんです!」
「うちはあの村一帯の田畑を管理しています。
村の外…人間社会にも、農産物を卸しています。
米、野菜、加工品…収入はそこそこあるので、生活面で苦労することはありません。
しかし、やりたい仕事も出てくるでしょうし、無理に農家を手伝わなくてもいいんです。
従業員も大勢いますし、現に、うちの充は偶に手伝う程度で、本職の仕事をやってますから。
な、充?」
「ええ。これが私の仕事なんです。」
差し出された名刺には、市内の会計事務所の住所と、所長の肩書きがあった。
「近頃は、農家に嫁ぐのが嫌だと敬遠されることが多いようですね…
私もワガママを言って、好きなことをさせてもらってますよ。」
充さんが微笑んだ。
ふとシルバ達を見ると、さっきまで伏せられていた耳と、丸まっていた尻尾が緩み、耳はピンと立ち、尻尾は絡まり合ってゆらゆらとうれし気に揺れていた。
と、太陽君が
「俺、大きくなったら銀波と結婚できるの?
パパやママみたいに、ずっと一緒にいられるの?」」
「あぁ、今 承諾いただいたから、大きくなったら…結婚式だな。」
太陽君は、うれしそうに、何やらシルバの耳元でささやいた。
シルバもそれに答えて真っ赤になりながら、くすくす笑っている。
それから小橋夫夫といろんな話をした。
空もとっぷりと暮れて、街灯がちらほらと点き始める頃に、三人は帰って行った。
別れを惜しんで離れたがらない二人に
「明日からまた会えるし、お休みの日にも会えるから。」
と納得させて、“また明日”の握手とハグが加わった。
ともだちにシェアしよう!