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許婚④
嵐のように過ぎた一日だった。
ぐったりとソファーに座り込んだ俺の側を、チビ狼になったシルバが跳ね回っている。
「あ、黒曜さん!後で片付けるから置いといて下さい!
ごめんなさい、ちょっと動けなくて…」
「いいよ、休んでて。
…いろんなことがあり過ぎたから…俺もちょっとキャパ超えてる…」
洗い物を終えて俺の横に座った黒曜さんは、そっと俺の肩を抱き寄せると
「輝を補充させてくれ…」
と目を瞑った。
俺もその胸に頭を預けて温もりと匂いを身体に染み込ませていった。
どのくらい経っただろうか、遠慮がちなシルバの声がした。
「ママ…お腹空いた…」
ハッと気付くともう七時を回っていた。
「ごめん!今から作るから待ってて!」
慌ててキッチンへ行こうとする俺を制した黒曜さんは
「今夜はもう、外食にしよう。
銀波、くるくる回るお寿司屋さんに行ってみるか?」
「うんっ!行くっ!」
「じゃあ、着替えておいで。」
「はいっ!」
元気に駆け出したシルバを見遣り
「ごめんなさい、俺がちゃんと作れば良かったのに。」
と黒曜さんに謝ると、人差し指で俺の頬を撫でながら
「たまにはいいだろ?
帰ったら…もっと輝を…な?」
その意味することを理解して、顔が真っ赤になった。
黙って俯くと
「…輝がほしいんだ…」
とささやかれ、お腹の奥が疼く。
「…そんなこと、今言わないで…」
小さな声で反論すると、機嫌を取るように頬にキスされた。
「おっ、俺、シルバを見てくるっ!」
反応しかけた俺自身を隠すように、無理矢理黒曜さんから離れ、シルバの部屋へと逃げ込んだ。
耳と尻尾を上手に隠したシルバを褒めてやり、初めての回転寿司デビューへと出発した。
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