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許婚⑤
初めての場所にオドオドしていたシルバは、すぐにタッチパネルの操作にも慣れ、俺達に『次はどれ?』とか『これ食べていい?』とか聞いてはうれしそうに注文していた。
その様子を見ていた黒曜さんは
「こんなに喜ぶなら、もっと早くに連れてきてやればよかった。」
とぼそっと呟いた。
俺も小さな声で答えた。
「遅まきながら、体験してるじゃないですか。
シルバにとったら、今がその時期なんだと思います。
俺も一緒にそれを味わえるし…」
「…そうか、そうだな。
輝は優しい。そう言ってもらったら、気持ちが楽になる。
シルバにしてやれなかったことの方が多過ぎて、ついつい自分を責めてしまうんだ。」
「黒曜さんはよくやってきた、と思います!
これからは、三人でいろんなことができるじゃないですか。
あ!太陽君も一緒に。」
「ねぇ、ママ!デザート食べていい?
アイスクリーム食べたい!」
「ふふっ。いいよ。じゃあ、俺も食べようかな。
黒曜さんは?」
「俺はいいよ。二人で食べな。」
洋服の下で、シルバの耳と尻尾がうれしそうに踊っている。
この子に我慢を強いてきた、そうせずにはいられなかった黒曜さんの今までの気持ちが…そしてそれをずっと後悔している黒曜さんが…切なくて胸がきゅっとなった。
「シルバ、これから楽しいこと、もっとたくさん増やそうね。」
と頭を撫でると、アイスクリームを口一杯に頬張ったシルバが「うん!」と頷いた。
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