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許婚⑧
俺が起きた時、シルバはもうリビングにいて、尻尾をゆらゆらとうれしそうに揺らして待っていた。
この子達の尻尾は雄弁だ。
「おはよう、シルバ!やけに早いね。」
「ママ、おはよう!うれしくって目が覚めちゃった!」
「そう、今日も楽しみだね。ご飯作るから待っててね」
「はーい!」
今日からの保育園生活が、シルバにどんないい影響を与えてくれるんだろう。
俺もすごく楽しみだよ、シルバ。
味噌汁が出来上がる頃に、黒曜さんが起きてきた。
「黒曜、おはよう!」
「おはようございます、黒曜さん。」
「おはよう、早いなシルバ…輝、おはよう…」
さり気なく俺に近付いてきて腰を引き寄せ、キスをする黒曜さん。
「んなっ!?」
「ふふっ。おはようのキスだよ、輝。」
瞬間真っ赤になった俺を残し、洗面所に行ってしまった。
…こんなことしてられない。
シルバの準備と俺の出勤時間が迫っていた。
急いでご飯を食べて、シルバに
「シルバ、たくさん遊んでたくさん食べて、元気に過ごしておいで!」
「はーい!輝もお仕事頑張ってね!」
「うん、行ってきます!」
「「行ってらっしゃい!」」
シルバの送り迎えは黒曜さんに頼んだ。
これから先、黒曜さんだけに負担をかけるのは嫌だ。
それにもっとシルバのことに気を配りたいし、関わっていきたい。
ちゃんと人狼としての自覚を持って、しっかり生きていく術を教えていかなければ。
それに、頼もしい婚約者もできたんだから。
シルバと同じ年頃の子供を持つ、お母さん達とも友達になりたいな。
いろんなこと、教えてもらわなくっちゃ。
片手間ではできない…やっぱり、転職…いや、退職を考えないと。
電車に揺られながら、明日、退職届を出そうと決心していた。
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