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てんやわんや②
課長は見るからに『しまった』という顔をしていた。
「いざという時に、日頃思ってることが出るんですから、せっかく回復した家族関係が壊れないようにして下さいね!
…モコがいても、修復できなくなりますよ。」
「…わかった…気を付けるよ…
とにかく…葛西の家庭の事情はよくわかった。
退職については…なるべく意向に沿うように努力する。
それにしても…残念だな…お前も慣れてきて、任せられる仕事が増えてきて、これから…って時に。
俺はお前のこと、買ってたんだぞ!
あーぁあー…残念だなぁ…」
意外だった。
課長がそんな風に思ってくれてたなんて。
「勝手を言って申し訳ありません!
とにかく、一カ月を目処によろしくお願い致しますっ!」
九十度のお辞儀をして、顔を上げた。
え…
「課長…?」
課長が泣いてる…?
「…何でもない…ちょっとゴミが入っただけだ。
俺は後から行くから、先に戻ってろ!」
「はっ、はいっ!失礼します!」
逃げるように会議室を飛び出した。
心臓が跳ねている。
あの課長が…
いつも飄々として、人を食ったような態度の、あの課長が…泣いてた。
俺、てっきり嫌われてるんだと思ってた。
仕事に未練はないか?と問われたら、はっきり『ない!』とは言い切れない。
入社して、それなりに頑張ってきたんだから。
出世に興味はなかったけれど、人間関係もよくて(一部気に入らない奴はいるけれど、それはどこに言っても同じだ)、きっと定年までいるんだろうって、漠然と思ってたから。
でも…
そんなこと以上に、今の俺には大切なものができた。
それを守って育てていくために、俺なりに覚悟した選択だ。
会社にかける迷惑が最低限になるように、きちんとやらなければ。
決心したら、何だか気持ちが楽になった。
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