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てんやわんや③
午前中はいつものように外回りをしていると、課長から電話が掛かってきた。
「葛西、昼から戻ってこれるか?」
「はい。午後は三時からの約束なので、昼には一旦戻ります。」
「そうか、じゃあ戻ったら声掛けてくれ。」
「わかりました。」
何だろう…きっと退職の件だろうな…
午前の予定を済ませ、少々緊張しつつ課長の元へ行った。
「課長、ただ今戻りました。」
「おぉ、葛西、お帰り。昼は?」
「あ、後で弁当食べます。」
「そうか、じゃあ、ちょっと会議室へ…」
と、また連れて行かれた会議室。
掛けなさい、と勧められた椅子に座ると
「退職の件だが…」
ほら来た!
「…考え直す…ってことはできないんだよな?
家族会議の上の決定事項だもんな?」
「…はい。ご迷惑をお掛けしますが、どうしても…後悔したくないので。
よろしくお願い致しますっ!」
立ち上がって頭を下げた。
ふうっー と大きくため息をついた課長は
「頭を上げなさい。」
と優しい声で言った。
今まで聞いたことのない、その声音にびっくりして頭を上げると
「…そうか…そうだよな。
真面目な優しいお前がそこまで言うんだもんな。
仕方がないか………ところで葛西。」
「はいっ。」
「お前、俺に隠してることないか?」
「はあっ??」
ぴきりと顔が強張った。
え?何?いつもの課長と違うぞ?
黙って見つめていると
「…お前からシルバと雄の狼の匂いがする。」
「はあぁーーーっ???」
えっえっえっ?????
何言ってんの、課長?
目を瞬かせて、口をポカンと開け、課長をガン見する俺。
空気が凍っている。
ここは…北極か?南極か?
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