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てんやわんや⑥
ぼおっとしたまま、弁当を食べて、三時の約束に間に合うように会社を出て、何を交渉したかはっきりと覚えてない上っ面の契約をした。
ひと息入れよう…
重い足取りで、いつも賑わっているコーヒーショップのチェーン店に滑り込んだ。
いたって普通のコーヒーを注文して席を探していると、見慣れた後ろ姿があった。
まさか…
「黒曜さん?」
振り向いたその人は、一番会いたかった人で…
「輝!偶然だな、仕事中か?おいで!」
気持ちの整理がつかなくて、その場に立ち尽くしていた。
「輝?」
俺はコーヒーを持ったまま、不覚にも声も出さず、頬に何か冷たいものが流れるのを感じていた。
何かを察した黒曜さんは、テーブルの上のパソコンを手早く片付け、俺の肩をさり気なく抱くと店を出た。
車に誘導され、ドリンクホルダーにコーヒーを置くと、静かにアクセルを踏んでどこかへ連れて行かれる。
車中では、しっかりと俺の手を握ってくれていた。
やがて車は、公園の駐車場に停まった。
その頃には泣き止んでいた俺は、エンジンを切った黒曜さんの方を向いて
「お仕事の邪魔してごめんなさい。
もう、大丈夫。
一番会いたかった人に会えたから、気が緩んじゃって…ごめんなさい。」
ウエットティッシュで、そっと涙の跡を拭いてくれた黒曜さんは
「大丈夫じゃないだろ?俺には言えないことか?」
と心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
青い瞳が揺れている。
「実は…」
俺は、さっきの課長との会話を話して聞かせた。
黙って聞いていた黒曜さんは
「そうだったのか…人狼の会社だったのか…
銀波のことは心配しなくていいんだぞ?」
その後、言葉を続けようとした黒曜さんを遮って叫んだ。
「シルバのことだけじゃないんだ!」
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