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てんやわんや⑨
男らしい体臭と、柑橘系で重めのフレグランスが混ざった、俺の大好きな香りがする。
黒曜さんはそっとシートベルトを外し、すんすんと鼻を鳴らして息を吸い込む俺の身体を抱きしめた。
「輝…」
とびきりの甘い声音で名を呼ばれ、お腹の奥がずくんと痺れる。
目を閉じ、うっとりと胸に擦り付いて、香りと体温を堪能していたが、はっと気付いた。
「仕事中だった!」
俺はあたふたと
「黒曜さん、ごめんなさい!仕事に戻りますっ!」
「落ち着け、輝。会社まで送っていくから。」
鼻先にキスされ、頭を撫でてもらい、ようやく落ち着いた。
シートベルトを締め直して、車は走り出した。
「仕事のこと、よく考えてごらん。
俺は、輝が選んだことに反対はしない。
とにかく、おまえの身体が一番だから。」
俺はその言葉に笑顔で頷いた。
「…やっぱり…輝は笑ってる顔がいいな。」
慈愛のこもった目で見つめられると、ドキドキする。
ぽっと顔を赤らめた俺に軽いキスをすると、満面の笑顔でささやいた。
「…会社まで送るよ。」
狭い車内で二人っきり…さっきまでのラブモードが残ってて、気恥ずかしい。
そっとシートベルトの上からお腹に手を当てた。
本当に…俺の中に、黒曜さんの子供ができたんだろうか…
激しく交わった時、身体が内側から変わった気がしてた。きっとあの時に、もう、俺は黒曜さんを受け入れる身体に変化していたんだ…
男の俺が妊娠…あり得ないけど、現実だ。
黒曜さんが言う通りに、確かに自分の匂いが変わってる。
少し甘いような優しい匂いに。
食べ物や環境が変わったせいかと思っていたけれど。
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