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てんやわんや⑩
会社の少し手前で横付けしてもらった。
「黒曜さん、ありがとう!行ってきます!」
「輝…今日は何時に終わる?」
「えーっと…17時半には終わります。」
「じゃあ、一緒に帰ろう。
それからシルバを迎えに行かないか?」
「え?本当に?でも、待たせちゃう…」
「打ち合わせをしてくるから大丈夫だよ。
丁度いい時間になる。」
「はい!会社を出る時に電話しますね。」
「輝、慌てて転ぶなよ!」
「大丈夫ですって…行ってきます!」
走り去る車に手を振って、歩き出す。
自分でも無意識にお腹に手を当てていた。
ひょっとしたら、ここに、赤ちゃんが…
そう思うと、胸に込み上げてくるものがあって、泣きそうになった。
くっ と顎を上げて我慢すると、まるで新しい道を切り開くように足取りもしっかりと、真っ直ぐに前を向いて会社へ向かった。
デスクに戻ると、花巻と森田が近付いてきた。
「葛西、聞いたよ。課長や俺達のこと、知らなかったんだね。」
「うん。つい最近自分のことも知ったばかりだから。
で?付き合ってるの?結婚はいつ頃?」
「来年くらいにはいいかなって…」
花巻の答えに、森田が恥ずかしそうに頷いた。
「そっか、おめでとう!
俺、わかんないことだらけだから、いろいろ教えてよ。」
「もちろん!それで…引き継ぎするかも…って聞いてるんだけど…」
「うん。事務方に異動って課長に言われたし…異動か退職か迷ってるんだ。
俺、あれもこれもできないから。」
「俺も結婚したら、事務に行こうと思ってるんだよ。
あそこなら、無理なく仕事ができるらしい。
みんな同じような感じだから。」
「そうか…どっちにしても、引き継ぎするから、よろしくね。」
任せとけと、俺の肩を叩いて二人が仲良く去って行った。
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