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いき違い⑧

一人で決めて納得してしまった黒曜さんは、俺をあやすように背中や腕を摩り、俺を抱き込んだまま、そのうち寝息を立てて眠ってしまった。 幸せそうに眠る黒曜さんの唇を人差し指でそっとなぞってみた。 擽ったそうに首を左右に数度振り 「んー…輝…」 と寝言で俺を呼ぶ。 一瞬起こしたかと驚いたが、また静かに眠っていてホッとした。 寝てても俺のことを…恥ずかしくて胸もきゅっとなったが、またじわじわと“あの”気持ちが侵食してきた。 こんな気持ち、嫌だな… 今まで経験したことのないような… 身体が変わって…って、じゃあ、生理前のイライラとか、とか、マリッジブルーとか、マタニティブルーとか…あの類のもの!? わからないけど、とにかく黒曜さんの言う通りに、明日病院へ行ってみようと決めて、目を瞑った。 シルバのうれしそうな顔が浮かんだ。 そうだ! 俺はあの子のママなんだ。 しっかりしろ、輝。 少し背伸びをして黒曜さんの唇にそっとキスをして、また布団に潜り込んだ。 もちろん、胸にぴったりとくっ付いて。 段々と睡魔に襲われる。 俺も規則正しい呼吸を感じながら、意識が遠ざかるのを感じていた。 「…ったく…かわいいことしやがって…」 本当は起きていた黒曜さんが、髪をくしゃくしゃと掻き回し、俺の顔中、肩や背中、鎖骨に無数のキスをしていたことを俺は知らない… 翌朝、いつも通りに支度をして出勤した俺は、課長に早退届を願い出ると 「そんな時は気にするな。 今日はいいから、もう帰れ。」 と男前な発言をされ、速攻で家に帰された。 急に帰ってきた俺に、黒曜さんは驚いていたが 「よかった。じゃあ、着替えたら行こうか。」 と、人狼専門の病院へ連れて行ってくれた。

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