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診察④
大きく目を見開いた黒曜さんは、先生をガン見し、その視線をゆっくりと俺に向けて…
くしゃ と顔が歪んだかと思ったら、ポロリと一筋の涙を零した。
「輝…」
黒曜さんは、そっと俺を抱き寄せると頭や背中を撫でながら
「ありがとう…ありがとう…」
と、何度も何度も呟いた。
俺もうれしくて…その広い背中に手を回して抱きしめた。
「…あの…そろそろいいかな?」
遠慮がちな先生の声に、ここが病院で診察中だったと、ハッと気付いた俺達は、慌てて離れた。
「「すみませんっ!」」
「いやぁ、若いっていいねぇ。
えーっと、葛西さん?」
「はいっ!」
「身体が変わったばかりだから、戸惑うこともあるかもしれないが無理しないように。
あ、でも、普通の生活をして大丈夫だよ。
仕事も今まで通りでいいけど、走ったりしないようにね。
もう少ししたら悪阻が始まるんだけど、人によって辛さが違うから、あまり気に悩まないこと。
『ご飯も食べれなくて、赤ちゃんに何かあったらどうしよう』って考えちゃうかもしれないけど、そんなことないから、心配しないでね。
特に人狼の血を引く子は強いから。
気になることがあれば、遠慮なく連絡しておいで。
私にはすぐ連絡が取れるようになっているからね。
二週間後にいらっしゃい。
その頃にはちゃんとわかるから。
…さて、須崎さん。」
「はい。」
「彼は急に男性から女性の身体になって、身体もそうだが、心も激変してる。
非常に不安定で、ちょっとしたことにも過敏に反応したり、泣いたり落ち込んだりすると思う。
悪阻が始まると、特に酷くなるかもしれない。
そっと寄り添って、抱きしめてあげてね。
落ち着くのは、愛する人の胸の中だから。」
先生はそう言って、ウインクした。
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