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診察⑤
車の中で…ずっと手を握り合っていた俺達…
怒涛の展開に、頭がついていかない。
でも
確かに、ここにいるんだ。
片方の手でそっとお腹に手を当ててみた。
実感は全くないけれど。
黒曜さんと俺の赤ちゃん…
心から愛し合ったら性別が変わるって、本当だったんだ。
…本当に妊娠したんだ。
仕事…すぐ引き継ぎしなきゃ。
部署替え…先生、普通通りで大丈夫って言ってたから、そうしようかな…
シルバ!
シルバは喜んでくれるのかな…
「…輝…輝?着いたぞ。」
「…あ…ごめんなさい、ぼんやりしてて…」
「昼メシ食べたら、少し横になるといい。
俺が作るよ。」
「大丈夫です!俺が」
「俺が作りたいんだ。下手くそだけどな。」
笑いながら黒曜さんが助手席のドアを開けてくれて
「抱いて連れて行きたいけど…万が一落っことしたら大変だし…輝、歩けるか?」
「だっ、大丈夫です!元気なんですから!」
目一杯首を横に振って、拒否した。
「…だよな…じゃあ、手を繋いでくれよ。
それならいいだろ?」
「…はい。」
大きくて温かな手。
左右繋ぎ直されて、腰を抱き寄せられた。
密着し過ぎて歩きにくいけれども、それもまたうれしい。
ダイニングの椅子に座らされ、冷蔵庫から夕べの残り物のおかずを取り出し、味噌汁を作ってくれた。
「残り物だけど、さぁ、食べよう。」
ふわふわした気持ちのまま、とにかくご飯を食べて、お茶を飲むとホッとひと心地ついた。
片付けをしようとするのに、黒曜さんに止められて、渋々寝室に行って着替えてきた。
「ほら、輝…横になって…」
「病気じゃないんですってば!」
「でも、いろんなことがあり過ぎて動揺してるだろ?
いい子だから、ベッドに行って。
…眠るまで付いてるから。」
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