209 / 337
報告⑦
「みんながね、『輝』『輝はかわいいねぇ』
『輝が笑った』なーんて、一から十まで輝中心になっちゃったの。
それまでは浩司が何でも一番で、みんなの愛を一身に受けていたのに、全部、輝に取られた と思ったんでしょう。
ある日、いつものように輝をあやしていると、突然浩司が
『輝をゴミ箱に捨てて下さい!』
って泣きながら言うの。」
ゴミ箱!?俺を!?
「そこでハッと気付いて、私達一人ずつあの子を抱きしめて、それぞれに『浩司は偉い』『浩司大好き』って話したの。
『今まで我慢して偉かったね。
浩司はちゃんとお話しもできるし、トイレもお風呂も一人でできるでしょ?
流石立派な男の子だね。
輝は赤ちゃんで何一つ自分でできないから、お世話してやらなきゃダメなの。
だから、お兄ちゃんの浩司が手伝ってくれなきゃ、輝、一人では生きていけないんだよ。
一緒に助けてね。』
って。
それから輝より先に浩司のことを優先してると、『お兄ちゃんだ』っていう自覚が出たのか、輝を物凄くかわいがってくれるようになってね。」
「…そうだったの…俺、ゴミ箱行きだったんだ…」
「だから、シルバちゃんのことは最優先にね。
でも、あの子は聡い子だから、大丈夫よ。」
そんな話をして、また連絡するから、と電話を切った。
ため息をつく俺に黒曜さんは、何とも言えない顔をして言った。
「輝、ゴミ箱に行かなくて良かったな…」
「…何か兄さんに電話しづらい…」
「大丈夫さ。きっと忘れてるよ。」
黒曜さんはそう言って、携帯を操作した。
「もしもーし。」
「義兄さん、黒曜です。今、電話よろしいですか?」
「うん、いいよ、元気?」
「ええ、お陰様で。
あの…実は……」
妊娠のことを話すと母と同じ反応で…俺達は耳がおかしくなるかと心配するほどの興奮ぶりだった。
ともだちにシェアしよう!