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ストーカーside:輝⑧

松村先生は、ひぃひぃ涙を滲ませて笑いながら 「くっくっ…あー…お腹、痛い…そうだよね、葛西君、知らないよねぇ… あのね、コレ、俺のダンナ。 俺達夫夫なんだよ。」 目尻をティッシュで押さえながら、まだ笑っている。 え…夫夫? 家族に蔑ろにされて『粗大ゴミ』『ATM』って言ってる娘さんがいるって… 名字は?別姓? 目を白黒させている俺に、松村先生は優しく言った。 「大学の時の同級生で、腐れ縁で結婚しちゃったんだ。 仕事上は、ほら、いろいろと制約があるだろう?だから旧姓の『松村』を使ってるんだ。 家族は…思春期の難しいお年頃の娘が一人。 それとモコ!ふふっ。 …まぁ、とにかく、特に人狼の社員の体調管理は俺に任せてもらってるから。」 「あっ、は、はい。よろしくお願い致しますっ!」 そんな話をしていると、慌てた風のノックの音がした。 「はい、どうぞ!」 松村先生が答えるや否や、バーンとドアが開いて、飛び込んできたのは… 「黒曜さんっ!」輝っ!!」 思い焦がれた愛おしい恋人(ひと)が飛び付いてきた。 大きな腕に抱きとめられ、温かな胸の中に閉じ込められる。 黒曜さんの心臓が、破裂しそうなくらいに暴れているのが、衣服越しに伝わってくる。 恐らく走って来たのだろう。 「良かった…輝…無事で、本当に良かった…」 俺もその身体をしっかりと抱きしめ返し、ただその温もりを感じていた。 コホンコホン 咳払いと揶揄いを込めた声が聞こえた。 「お二人さん、そろそろいいかな? 続きはお家に帰ってからで…」

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