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護り③

「手を止めて済まないな。 こっちは、来週から来る、葛西輝君。 営業からの異動だ。 妊夫さんだから、気を付けてあげて。 葛西君、こちらはうちのまとめ役、課長補佐の矢部洋子さん。 みんな『矢部ちゃん』って呼んでる。 イラストは彼女の自信作だ。 三人のベテランママさんだから、プライベートなことも相談するといい。 口が固いから心配いらないよ。」 「あら、妊夫さんなのね!?承知しました! よろしくね! ここは気を張る所じゃないから、のんびり仕事して。 何でも聞いてちょうだい。」 矢部ちゃんはえくぼの出るキュートな笑顔で、俺に手を差し出してきた。 その手をそっと握り挨拶をする。 「イラスト、そっくりです! どうぞよろしくお願いします。」 にぱぁーっ と顔を綻ばせた矢部ちゃんは、俺の手を握ったまま課長の方を向くと 「課長、少し案内してもいいですか?」 「あぁ、頼みます。」 「葛西君、じゃあこっちに来て!」 「はい!」 やっと手が離れ、矢部ちゃんの先導で部屋内を案内される。 「一番奥が課長、次は私、その前は今いないけど平野課長補佐。 葛西君の机は…そうね、しばらく私の横にするわね。 多い時で十五人、その日によって出勤人数が違うから、戸惑っちゃうかもしれないけど、そのうち慣れるから大丈夫よ。 トイレはフロアの前。 給湯室はその横。 あ、タイムカードは今と一緒のシステムなんだけど、お腹が目立ってきて嫌なら、裏口で社員証を通してね。 警備員さんには話つけとくから。 うーん…こんなとこかしら。 仕事内容は、来週から教えるわね。 くれぐれも無理をしないように。 じゃあ、待ってます。 よろしくね!」 「ありがとうございました! よろしくお願いします!」 ひらひらと手を振って、矢部ちゃんがデスクへ戻っていった。

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