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咆哮⑤

黒曜さんと兄さんが息を切らして上がってきた。 黒曜さんは兄さんに支えられていた。 一人で動けない程の怪我をしているというのに。 二人とも俺の姿を見て驚き、固唾を飲んでその場に立ち尽くしていた。 喉が切れ、掠れた声しか出なくなる。 かはっ と咳き込むと血反吐が出た。 それでも吠え続ける。 もう、ダメ…声が出ない… 諦めかけたその時、あちこちから遠吠えが聞こえてきた。 何故か意味がわかる。 『誰か知ってるか?子供が攫われた』 『親が必死で訴えてる!』 『俺は知らないな』 『おい、知ってる奴いないか?』 『事故は見たよ!黒塗りの車が街の中に走って行った』 『ナンバー見たか?』 『確か◯◯ ◯…◯◯ー◯◯だ』 『そこら中の人狼に知らせろ!イヌ達にも!』 『わかった!任せろ!』 『ナンバーの情報は警察に!』 『おけー』 遠吠えの数が増えていく。 『泣いてる子供を無理矢理車に押し込んでた』 『人狼の村にも知らせろ』 『私は見てないけど…隣町にも知らせる!』 『俺も!』 『どういうこと?鳴き声の意味がわかる…』 『私も!これ…都市伝説の人狼?』 『本当にいたんだ…ってか、俺、人狼!?』 『うそー…マジぃ?』 『誘拐だって!誰か見てない?』 『うちのペットの犬に聞いてみる!』 『すげぇ!犬と喋れる!…泣いてる子供見たって言ってる! うわっ…遠吠え始めた…』 自分を人狼だと知らない人達にまで広がっていた。 夜の闇に紛れて、街中を鳴き声が駆け巡る。 見知らぬ人達が…俺達のために… 滂沱の涙が止まらない。 みんな、ありがとう! シルバ、待ってて!! 絶対に、絶対に助けに行くから!

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