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緊迫⑤

ショックで身体がガタガタ震えてきた。 涙も出てこない。 「シルバ?」 そんな様子の僕に、ママが気付いた。 「…黒曜さん、この子達お願い。」 そっと黒曜の腕に僕達二人を預けた。 そして、頭をそっと撫でて、キスしてくれた。 ぐいっ と涙を手の甲で拭い取ると、ママは一直線に『社長』の元に歩いて行った。 何? ママ、どうしたの? 「輝っ!?」 黒曜がママの元に向かおうとしたその時 ママは物も言わず、身体を大きく振りかぶっていきなり拳骨で、一発殴り飛ばした。 両脇をガードしていた警官のお兄さんも吹っ飛ぶくらいに。 丁度、固定されたサンドバッグみたいに、綺麗にヒットしたんだ。 そして…三人仲良く尻餅をついていた。 突然の出来事に、みんな呆気に取られている。 『社長』は怒りと羞恥で真っ赤になりながら 「なっ、何しやがるっ! お前だって化け物のくせにっ!」 ママはそんな叫び声にも怯まず 「化け物上等っ! お前はその化け物以下だっ!!! …今後、人狼に関わってみろ…その喉笛、かっ裂いてやるっ!!!!!」 ママの物凄い剣幕に『社長』は、ひと言も返せず項垂れていた。 倒れた両脇の警官に「ごめんなさいね」と一声かけて、ママは堂々と僕達の元へ戻ってきた。 「えへへっ。やっちゃったー。」 「輝…無茶して…手、見せてみろ。」 ママの右手は真っ赤に色が付き、少し腫れていた。 「こんなモンじゃ済まないけどね。」 ぺろっと舌を出し、黒曜から僕達をまた受け取って、ぎゅっ と抱きしめてくれた。 大好きなママの匂い。 「ママ…」 「シルバは黒曜さんと俺の大切な子供だ。 …俺達のところへ帰ってきてくれてありがとう… 太陽君、シルバを助けてくれてありがとう…」 そう言って、ママはまた泣いた。

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