256 / 337

緊迫⑨

森田を見送り、黒曜さんとシルバを真ん中に挟み手を繋いで兄さんの部屋のインターホンを押す。 すぐにドアが開いてエプロン姿の兄さんに出迎えられた。 「さあ!上がって!ご飯できてるから!」 水谷さんも奥から出てきた。 はぁ…この人が兄さんの… 「…る、輝っ!」 「はっ、はいっ!」 「何だよ、ぼぉーっとして。 ほら、手を洗って。黒曜君も、シルバちゃんも。 お腹空いただろ?こっちおいで!」 テーブルの上には、一口で食べれるような小さなおにぎりや、カラフルなカップに入ったお惣菜の数々が、所狭しと並んでいる。 シルバは目をキラキラと輝かせ、今にも涎が落ちそうな顔をしている。 「…凄い…兄さん、これ、まさか兄さんが作ったの?」 ふんっ と踏ん反り返った兄さんは 「当ったり前だろー! ばあちゃん仕込みの料理の腕は、輝だけじゃねーんだぞ! シルバちゃん、兄ちゃんのも美味いから、食べてごらん!」 「いただきますっ!」 シルバが唐揚げに被りついた。 「おいしーーーっ!!!」 「みんな何飲む?大人は…あ、輝はシルバちゃんと一緒にお茶な! 黒曜君はビール?芳樹は?」 「では遠慮なく、ビールを…」 「俺も!浩司さん、俺持ってくるよ。」 「あぁ、頼む。」 俺はその自然な様子をじっと見ていた。 「ねぇ、兄さん。」 「ん?」 「水谷さんってひょっとして…」 「そうです。あなた方のおじいさんに助けていただいた、あの時の子供です。」 水谷さんはビールをテーブルに置き、俺の前に正座すると 「俺を助けたせいで、おじいさんが命を落とすようなことになって…申し訳ありませんでした!」 と床に頭を擦り付けんばかりに、深く深く下げた。 「そんな!頭を上げて!俺はそんなこと恨んだりしてないから!」

ともだちにシェアしよう!