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ぬくもり①
温かくて大好きな匂いに包まれて、少しずつ目が開いてくる。
あれ?ここは…そうだ、兄さんの家だった。
逞しい腕に肩を抱かれ、大きな胸元との間には、獣化したシルバが丸まっていた。
どちらも規則正しい呼吸音で、まだ眠っているのだとわかる。
二人の寝顔を交互に見て、やっと安心した。
そっとシルバの背中を撫でた。
擽ったかったのか、もぞりと動いて、またすぐに静かになった。
心の中で『起こしてごめんね』と謝って、また目を閉じた。
すると
「シルバだけか?」
と声がしてびっくりした!
「こ、黒曜さん!?起きてたの!?」
「うん。可愛い寝顔を堪能してた。
そしたら起きちゃったから、慌てて寝たフリして薄眼を開けて見たら…微笑んで銀波だけ撫でて。
ねぇ、俺も撫でてくれよ。」
少し拗ねた瞳は、真っ直ぐに俺を見つめている。
恐らく俺の顔は真っ赤になってるんだろう。
ぽっぽっと火照るのがわかる。
そっと腕を伸ばして数度頭を撫で、そのまま手を滑らせて頬に手を当てた。
「黒曜さん…身体、大丈夫ですか?」
黒曜さんは俺の手に自分の手を重ねて言った。
「全然。夕べ、満月だっただろ?
もう完治してる。どこも痛くないよ。
輝だってそうだろ?」
言われてみれば…あの事故でダメージを受けているはずの全身も、アイツを殴りつけた右手も、どこも痛くない。
「…ホントだ…どうして?」
「月の…特に満月の光は、人狼の自己回復力を高めるんだ。
獣化するのも満月の日が多いんだよ。」
「…知らなかった…」
その時、もぞもぞと俺達の顔の間に移動してきたシルバが
「きゅうん…」
と甘えて抱きついてきた。
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