275 / 337

収束⑧

心配そうに覗き込む黒曜さんの瞳と打つかった。 「あ…いいえ… 本当に、本当に大勢の人達に助けられたんだな…って。 俺、人狼で良かったな…って。」 「輝…」 瞬間、目の前に影が差して、唇に柔らかな物が当たった。 えっ!? 「あははっ!デッカい目!輝、ビックリし過ぎ!」 キッ、キスッ!? 「黒曜さんっ!こんな所でっ!」 黒曜さんは、人差し指で俺の鼻を突っつきながら 「お前が愛おしくってつい…誰も見てないから心配するな。」 くっくっ と、なおも笑いながら、俺の戸惑いを無視して 「銀波ー!輝に合わせてゆっくり行くんだぞー!」 とシルバに呼び掛けていた。 先を進んでいたシルバは、その声に振り返り、パタパタと駆けて来た。 俺の前で立ち止まると 「ママ、赤ちゃん、置いて行ってごめんね。」 そしてお腹を撫でてから 「一緒に行こうね!」 と、俺と黒曜さんの片手ずつ繋いで、真ん中に陣取った。 左右を満足気に見上げたシルバは 「来年は、僕がベビーカーを押すんだ!」 と、うれしそうに笑った。 「そりゃあ頼もしいな、お兄ちゃん。」 黒曜さんにそう言われて、擽ったそうに笑うシルバ。 何気無い風景。 何の変哲も無い日常。 これがどんなに幸せなことか。 大金持ちでなくていい。 地位も名誉もいらない。 “普通”に過ごせることが、どんなにありがたいことなのか。 この小さな手の温もりが泣きたい程に愛おしく、頼もしく感じられた。 「頼りにしてるよ、お兄ちゃん。」 くふん はにかんで見上げてきたその瞳は無垢で清らかで、美しかった。 「ありがとう、シルバ。」 きゅっと手を握ると、きゅっと握り返された。 また、くふん と笑ったシルバは、背筋をしゃんと伸ばし、真っ直ぐ前を向いて歩き出した。

ともだちにシェアしよう!