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後日談
あの事件で、俺の叫び声をキャッチしたのは、人狼や犬達だけではなく、
『自分を人狼だと認識していない普通の人間』
も、そうだった。
結果、街中をパニックに陥れたのだが、以前より不測の事態のために密談を重ねていた、人間側と人狼側の条約の通り(政治的なことはよくわからないのだが)、彼らは粛々と事態を収拾していき、たった一週間で跡形もなくテレビや週刊誌、SNSにすら話題に上らなくなった。
結局、人狼は都市伝説だ との解釈に落ち着き…
それでも真摯に求める者に対しては、身元を確認した上で、充実したケアセンターの職員が対応し、人狼として受け入れていくのだそうだ。
情報操作…国という大きな権力に思わず身震いした。
元はと言えば、俺が仕出かしたことだから、逮捕でも何でも受け入れるつもりでいたのだが、『全くお咎めなしの被害者』というより『誘拐犯を炙り出した功労者』的な扱いを受け、その知らせを聞いた時には、一気に腰が抜けそうになった。
「…黒曜さん…ホントにこれでいいのかな…
一歩間違えば、俺、全ての人狼の命を奪いかねないことをしたのに…」
俺は今 ラグに座り、黒曜さんに背後から抱きしめられて、その温もりを満喫していた。
「結局、人狼のためになることをしたんだから、いいんだよ。結果オーライだし。」
「でも…」
「こういうことが起きるのは、どちらも想定内のことなんだよ。
俺達は、守ってもらったこの命を全うするまで真剣に生きなきゃ。
銀波と産まれてくる子供のためにも。」
ね? と優しく後ろからキスされ、
“この温もりがいつまでも続きますように”
と祈りながら、愛おしい夫の愛 をたっぷりと受け止め、そっと目を閉じた。
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