276 / 337

後日談

あの事件で、俺の叫び声をキャッチしたのは、人狼や犬達だけではなく、 『自分を人狼だと認識していない普通の人間』 も、そうだった。 結果、街中をパニックに陥れたのだが、以前より不測の事態のために密談を重ねていた、人間側と人狼側の条約の通り(政治的なことはよくわからないのだが)、彼らは粛々と事態を収拾していき、たった一週間で跡形もなくテレビや週刊誌、SNSにすら話題に上らなくなった。 結局、人狼は都市伝説だ との解釈に落ち着き… それでも真摯に求める者に対しては、身元を確認した上で、充実したケアセンターの職員が対応し、人狼として受け入れていくのだそうだ。 情報操作…国という大きな権力に思わず身震いした。 元はと言えば、俺が仕出かしたことだから、逮捕でも何でも受け入れるつもりでいたのだが、『全くお咎めなしの被害者』というより『誘拐犯を炙り出した功労者』的な扱いを受け、その知らせを聞いた時には、一気に腰が抜けそうになった。 「…黒曜さん…ホントにこれでいいのかな… 一歩間違えば、俺、全ての人狼の命を奪いかねないことをしたのに…」 俺は今 ラグに座り、黒曜さんに背後から抱きしめられて、その温もりを満喫していた。 「結局、人狼のためになることをしたんだから、いいんだよ。結果オーライだし。」 「でも…」 「こういうことが起きるのは、どちらも想定内のことなんだよ。 俺達は、守ってもらったこの命を全うするまで真剣に生きなきゃ。 銀波と産まれてくる子供のためにも。」 ね? と優しく後ろからキスされ、 “この温もりがいつまでも続きますように” と祈りながら、愛おしい夫の(キス)をたっぷりと受け止め、そっと目を閉じた。

ともだちにシェアしよう!