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雨降る夜①
俺達は今、兄さんのマンションにいる。
正確には、“兄さんと同じマンション”。
付け加えて言えば“花巻と森田と同じマンション”だ。
あの事件から、黒曜さんの行動は早かった。
「『念には念を』だよ。」
そう言って笑った黒曜さんは、偶々出た空き部屋を即座に手に入れ(それもキャッシュで!)、あれよあれよという間に引っ越しも済ませてしまった。
新しい部屋は今までよりも見晴らしが良く、一部屋広くて…あぁ、きっと生まれてくるこの子のためにもと考えてくれたんだ、と思うと胸がじんとなった。
「ママぁ、行ってきまーす!」
「はい、シルバ、行ってらっしゃい!」
「輝、行ってきます。花巻君達によろしくね。」
「はい、伝えます。行ってらっしゃい!」
それぞれにキスとハグをして送り出した。
最初はちょっと恥ずかしかったこの見送りも、今ではすっかり慣れてしまった。
時々黒曜さんに、舌まで入れる濃厚なキスをされることもあるけど…
さ、俺も準備しなくちゃ。花巻達を待たせては申し訳ないから。
あれから復帰してすぐ部署替えをしてもらった俺は、新しい環境と業務に慣れるのが必死だが、ゆったりした雰囲気の中で過ごさせてもらっている。
ここにいる人達は皆人狼で、子育て真っ最中の人や、俺みたいな妊婦(夫)もいる。
同じ業務を共有することで
『〇〇さんのお子さんが急病で休みだから、△△さん、それやって』だとか
『□□さん、切迫早産で一か月早く産休に入るから誰かフォローできる?』とか、誰がどこに入っても仕事が回っているのだ。
だから無理のないような仕事配分がなされ、最初『こんなんでいいの!?』と戸惑った俺も、段々とそれを受け入れまったりしてきて、毎日走り回っていた営業の頃が嘘みたいだ。
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