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雨降る夜②
今日も無事に仕事が終わり、ホッとしているとラ〇ンが届いた。
『あと十分くらいで着くから、少し待っててね。
下に着いたらまた連絡するよ。
ごめんね。
輝、愛してるよ。』
惜しげも無く『愛してる』と言葉にしてくれる夫に『ありがとう』と呟いて返信した。
「葛西…じゃなかった須崎君、どう?仕事少しは慣れた?」
穏やかな笑みを浮かべて話しかけてきたのは、中学生と小学生の二人のお子さんを持つ加藤さんだった。
「全く内容もペースも違うので、戸惑う部分もありますが、早く覚えようと必死です。」
正直に言うと、加藤さんは笑いながら
「あなたは吸収が早いから助かるわ。
でも、そんな、片膝張らないで大丈夫よ。
ここは『無理しない、頑張らない』がモットーの部署だから。
そうでないと、家のことに影響するでしょ?
のんびり、ゆっくり。自分が手に負えない仕事は助けてもらう。そして助けてあげる。
あなた、頑張り屋さんだから…もっと楽にしていいのよ。」
「はい、ありがとうございます。
じゃあ、ぼちぼち頑張ります。」
「そうね。もうすぐお母さんになるしね。
じゃあ、また明日!」
「はい、お疲れ様でした。」
ひらひらと手を振って社員証のバーコードを通すと、加藤さんは時間きっちりに帰って行った。
そう言えば、ここの人達って、時間きっちりに帰っていく。
俺もすぐ帰るつもりだったから、既に読み取りは済ませてあるけど。
仕事して、子育てして、家事をして、親と同居の人は“それなりの”やるべきことがあって…
『妻』が働くと言うのは、気力も体力も必要なんだな。
意地悪を仕掛けてくる人もいないし、悪口を言う人もいない。
胎教にはとても良い環境だと思う。
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