279 / 337

雨降る夜③

話を聞いてると、旦那様が残業で遅い、シングルで子育てしなきゃならない、家族が家事に全く協力しない、とか… それぞれに皆んな苦労しているらしい。 俺は…黒曜さんの仕事が自由が利くから迎えにも来てもらえるし、買い物だって一緒に行ってもらえる。 掃除も洗濯も、時には料理も。 シルバのお世話だってお手の物だ。 毎日送り迎えだってしてくれてる。 何て出来過ぎた夫なんだろう、って改めて黒曜さんに『ありがとう』って言いたくなった。 そう思うと、早く黒曜さんに会いたくて、うずうずしていると、着信があった。 黒曜さん! 「輝?着いたよ!」 「今行きます!」 「お疲れ様でした。お先に失礼します。」 まだ仕事中の先輩方に声を掛けて退出した。 トクトクと胸が高まっている。 早く、早く会いたいよ、黒曜さん。 (はや)る気持ちを何とか落ち着かせて、俺を待つ黒曜さんの元へと急いだ。 いた! まだ見慣れない車。 あの事故で大破した車は廃車になり、最新モデルのSUVに変わったのだった。 いつものように後部座席のドアを開けようとしたら、運転席の窓が開き 「輝、お疲れ様。今日はこっちに乗って。」 と助手席を指差された。 あれ?シルバは? 『ママ、お帰り!』というかわいらしい声が聞こえない。 スモークガラスで見えなくて、不安がよぎる。 回り込んでドアを開けて滑り込み、後ろを覗き込んでもシルバがいない。 「黒曜さん、シルバは?」 「今夜はね、太陽君ちにお泊まり。 あちらのお父さんが『どうしても』って。 明日、遊園地に行くから、ぜひ銀波も一緒に連れて行きたいんだって。 『あんな事件の後だから悩んだんだけど、それを吹き飛ばすくらいに遊んでくるから、お願いします』って頭下げて言われて『ダメです』なんて言えなかったんだ。 輝に無断で決めてしまってごめん。」 黒曜さんはぺこりと頭を下げた。

ともだちにシェアしよう!