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雨降る夜⑦

厚く謝して店を後にする頃には、しとしとと雨が降っていた。 窓ガラスの雨粒に、街の灯りが反射してキラキラと煌めいている。 綺麗…ぼんやり眺めていると、赤信号で停車した。 「…輝と手を繋いで少し歩こうと思ってたけど…本降りになる前に帰ろうか。」 「…はい。残念ですけど、また次に。 黒曜さん、ご馳走様でした。本当にうれしかったです!」 「また来ような。」 「はい!」 大きな手で頭をくしゃくしゃと撫でられて、心地良さにうっとりと目を閉じると、唇に何かが当たった。 驚いて目を開けると、視界一杯に黒曜さんの顔がどアップで飛び込んできて、思わず肩をぐいっと押した。 「こっ、黒曜さんっ!!!!!」 意地悪く微笑む愛しい(ひと)は、肩を震わせている。 「輝、かわいい。」 ぼふっと顔から火が出そうなくらいに体温が急上昇した俺は、ドキドキする胸を鎮めることができずにいた。 「…意地悪。いけず。」 ボソリと呟くと 「かわいい輝がいけないんだ。」 と俺のせいにしてくる。 理不尽な言い掛かりに、拗ねたように頬っぺたを膨らますと 「そんなかわいいことされたら運転できなくなる。」 そう言って頬っぺたをつつかれた。 何だかベタな恋人同士のやり取りに、ますます顔を赤くする俺に、黒曜さんはご満悦だ。 ガラスに当たる雨音とワイパーがきゅるきゅると鳴る音だけが聞こえてくる。 時折、対向車に照らされる黒曜さんの横顔はとても綺麗で…俺が好きになっちゃったのは、この(ひと)なんだと、思わずじっと見つめていると 「…そんなに見つめられたら、穴が開くよ。 もうすぐ着くから待っててくれ。」 居心地悪そうに諭された。

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