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雨降る夜⑧
間もなく駐車場に滑り込んだ車から、攫うように俺を降ろした黒曜さんは、手をしっかりと絡めてエレベーターに乗り込んだ。
「…黒曜さん?」
名前を呼んでも、黙って真っ直ぐに前を向いたまま、俺の方を向いてくれない。
何か機嫌を損ねるようなことしたっけ?
さっきまでご機嫌だったよね?
思い当たる節もなく、繋ぐ手は じっとりと汗ばんでいた。
不安な気持ちで後をついて行き、玄関に入った瞬間、ふわりと抱きしめられた。
「もう、限界…輝…愛してる…」
怒ってたんじゃなかった…良かった…
後頭部をロックされ、抗う間もなく口付けられた。
大きく見開いた目は黒曜さんの瞳を捉え、その奥の情欲に気付いて心臓が跳ねた。
口内に忍び込む熱い塊を受け入れ、絡まる舌先から口の端へ溢れる唾液の生温かさを感じていた。
んっ…んむ…っ…
幾度となく交わしてきた口付け。
ずっと…生まれる前から、この感触を知っている…
俺達は“番”なんだ…
散々嬲られて、息絶え絶えな俺に気付いた黒曜さんが、やっと口を離してくれた。
鼻呼吸だけでは酸素が足りず、肩で大きく息をする。
「…ごめん、輝…我慢できなかった。
お腹の子に障るといけないから、シャワー浴びてくる。
…今夜、いいか?」
しょげかえった狼がそこにいた。
俺は両手で黒曜さんの頬を挟み、軽いキスをするとありったけの勇気を振り絞って言った。
「一緒に…入ってもいいですか?」
ぶわりと空気が舞った途端、黒曜さんの耳と尻尾が変化した。
艶のいい漆黒の耳と尻尾が揺れている。
「…煽るなよ…変化しちまったじゃないか…」
バツ悪そうな黒曜さんに
「俺は大好きですよ。」
と微笑むと、黒曜さんは真っ赤な顔をして、俺を横抱きにするとバスルームへ闊歩していった。
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